映画館にて、美しいモノクロ映像に不穏すぎる音が印象的な予告を観たのが3月のことであった。その日にチラシを貰って帰り、以来気になっていた『ガール・ウィズ・ニードル』が5月16日に公開と相成ったわけである。
ときは第一次世界大戦の時代にさかのぼり、女性の権利を蔑ろにしてきた社会が引き金を引いたといっても過言ではない、実際に起きてしまった恐るべき事件を題材としている。で、これがまたすばらしい作品だったので感想なんかを書いておきたい。

ひたすらに恐ろしい映画…!痛みとともに心に残る作品だったゾ
『ガール・ウィズ・ニードル』だいたいこんなはなし
舞台はデンマークのコペンハーゲン。
夫を戦争にとられているカロリーネは縫製工場で働いているものの家賃を払えず、滞納を重ねついには追い出されてしまう。職場に寡婦手当を申請するも、夫の安否が不明なため工場長ヤアアンから許可を得られない。しかし夫の安否の調査に親身に手を貸してくれるヤアアンと惹かれ合い、カロリーネは彼との間に子を設けるに至る。彼は結婚をしてくれると言ってくれたのだが、彼の母親に許しを得られずに、彼自身もまた「早すぎた」とあやまるばかりであった。カロリーネは身籠ったうえに捨てられ、果ては職まで失ってしまう。
これ以上現状を悪化させないよう、カロリーネは信じがたい選択をしかけるのだが、既のところでダウマという女性に手を差し伸べられ、出産の後に彼女のもぐりの養子縁組斡旋所に世話になる。更にそこで乳母として働かせてもらい始めたカロリーネは彼女との間に強い絆を築いていくのだが、いつのまにかとんでもない状況の渦中に置かれていたことに気づき、真実を目の当たりにしてしまい…という話。
『ガール・ウィズ・ニードル』感想とか
行き届いた美術と撮影による、色味すら感じられるような美しいモノクロ映像に引き込まれた。しかしながらそこに描かれるのはなんとも絶望的な社会構造である。当時の社会によって権利を蔑ろにされてきた女性たちのあまりの痛みと哀しみに押しつぶされそうになる、そんな映画だった。
デンマークは現代では幸福度が高い国だが、当時は戦時下であり貧困にあえぐ市民が多く、冒頭いきなりカロリーネは十数週にわたる家賃滞納で借りている部屋を追い出されてしまう(余談だが週払いだった模様)。その時内見に来ていた新入居者もまた女性であり、幼い娘を連れていた。カロリーネもその女性も、住居の確保のために必死である。カロリーネの嫌がらせに怯んだ少女は、毅然とした母親に打たれて鼻血をだしてしまう。それほどに互いに切迫しており、さらに子どもが平然と打たれてしまうことにもなかなかにショックを受けた。
パンフレットによれば、かつて未婚のまま子どもを生んだ女性たちは侮蔑的に「堕ちた女」と呼ばれてしまっていたという。その新入居者の女性もそんな境遇だったのかもしれない(後のカロリーネも然り)。そしてその社会の底辺に突き落とされてしまった女性たちがいかに困難な状況に陥るかを、この映画はあまりに容赦なく見せつけてくる。
本国では誰もが知るという連続殺人事件をベースにしているものの、映画はシリアルキラー自身を描こうとしているわけではなく、絶望的な境遇のカロリーネの数奇な出会いと恐ろしい真実に触れる道程、そしてそれらを取り巻くいびつな社会をこそ主軸においている映画であった。最終盤の裁判のシーンにて声を荒げる群衆たちが事件の表層のみを見て正義を振りかざす様は、現代にも通じるものを持っていてなんともゾッとする。
ひたすらに悲しく残酷な物語ではあるのだが、最後に一筋の希望を残して物語は終わる。
熱を持った疼きのように、なんとも心に残る映画であった。

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