2025年7月に観た映画

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映画館で観たものに加え、配信やソフトでの鑑賞も含めて今月鑑賞したものを書き残すゾ

夜明けの夫婦【U-NEXT】

山内ケンジ監督作品を観なければ、ということで配信されている前作を鑑賞。

コロナ禍が終息した時期、夫の両親と暮らすサラ(鄭亜美)が孫の顔を見たい姑のプレッシャーにほんのりさらされながら暮らす様子を描く「社会派喜劇」。夫康介とは四六時中ともに過ごすことで逆にセックスレスに陥り、しかも彼が不倫をしているのも感じられ、一方姑の晶子は孫欲しさにどんどん精神的に不安定になっていき…という話。

これまたすばらしい作品である。笑ってしまうコメディ要素の強い展開もありつつ、笑ってしまって良いものか?ともまた思ってしまう題材であり、これまた一筋縄ではいかないわけである。

俳優が『アジアのユニークな国』と共通な部分が多く、ともすれば「憐れみの3章」みたいな赴きで、それどころかロケーションすら共通である『アジアのユニークな国』のあの家(=監督のご自宅)がメインだったりする。このあたりの事情は『アジアのユニークな国』のパンフレットのインタビューにて語られているので要チェックと言える。

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かなり肌色!

KINETTA【JAIHO】

どうしてももう一度観ておきたかったヨルゴス・ランティモス監督の初単独監督長編作品。

そんなわけで今月はJAIHOに入ることに。

再鑑賞してなお説明不足感が凄まじいが、だいぶ入ってきやすくなっていた気がする。

PITY ある不幸な男【U-NEXT】

ランティモスと長年タッグを組む脚本家エフティミス・フィリップが脚本を担当したギリシャ映画。監督はバビス・マクリディス氏。

事故により妻の危篤状態が続く夫は毎朝咽び泣くことから1日を始めていた。近所の奥さんからは差し入れのオレンジケーキが朝の定刻に届くようになっており、行きつけのクリーニング屋には毎度「じきによくなる」と声をかけてもらう。そんなこんなで気づけば完全に「同情」に依存していたのだった。いざ奇跡的に妻が回復してからはなにやら彼は逆に精神を崩し始めてしまい…というサイコスリラー的な話になっていく。

そんな感じで話のトーンは完全にランティモス作品に近い赴きで、そこを汲み取れれば十分楽しめるはず。

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キネッタのおじさんも出てた!

フレンチ・コネクション【Blu-ray】

「平山夢明のシネマdeシネマ」で解説回が配信され、未見だったため鑑賞。フリードキンの1971年の作品。

実在の麻薬密輸事件をモデルにしたアクションでスリラーな警官モノ。なかなか強引な手法も厭わないドイル刑事が相棒のルソーとともに大規模な取引の捜査を進めていく、という話である。当時のアカデミー賞で8部門ノミネート5部門受賞している。

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おもしろ〜カーチェイス(追いかけるのは電車)の中のあるシーン、まじで声出た…(かわいそ〜)

ココモ・シティ【JAIHO】

セックスワーカーとして働く黒人トランス女性4名の明るくも赤裸々なインタビューをもとに彼女たちのような境遇の人々の実態に迫るドキュメンタリー。JAIHOのドキュメンタリー作品コーナーを眺めていて発見し、興味があり鑑賞してみた。おしゃれで遊び心のあるモノクロ映像を通して描かれるのは、黒人からもある種の差別を受けている彼女たちを取り巻く危険や抱える怒り、そして心の叫びである。

ミツコ感覚【U-NEXT】

山内ケンジ監督の初長編映画。まじで面白かった。

会社の上司と不倫中の姉エミと、写真学校に通うも就職先がなくスナックで働き始めた妹ミツコの独特な日常を描く作品である。冒頭から珍な男三浦がミツコにつきまとい、その場に遭遇したエミはエミでその男がついたとっさの嘘=中学が同じだ、という話を真に受けなんとなく二人が暮らす家まで招いてしまい、そこからおかしな関係が始まっていき…といった感じだが話が説明しづらい。

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シュールでユーモラスでなんかクセになる映画…!かなり好きな作品になってしまった

エレファント・マン【U-NEXT】

だいぶ前に一度観たことがあったが、ディファレントマン(7/11公開『顔を捨てた男』)の前に改めて観ておこうと鑑賞。

エレファント・マンことメリックに対する残酷な言動は観ていて辛くもなり、ともすれば自分もそちらがわに立ちうるのではという恐怖も感じたりしてしまった。

かたつむりのメモワール【近所のシネコン】

オーストラリアのアニメーション作家アダム・エリオット監督による15年ぶりの長編作品。

幼少の頃から孤独を抱え、寂しさを紛らわすためにカタツムリグッズを集めて生きてきたグレースが、風変わりなおばあちゃんピンキーと出会い少しずつ前を向いていく、という話である。独特だがどこかかわいらしいキャラクターが思いのほか毒っけのある描写を交え動き回るクレイアニメ作品となっている。内容や描写は大人向けといった趣で、ブラックユーモアや苦々しい現実も多分に込められている。

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製作8年!13万5千カットを手作業で作ったってだけでビビる…!内容も人生、って感じでしみじみ

ナイアガラ【U-NEXT】

上映中の『ルノワール』が気になっており、早川千絵監督作品を観てみようと2014年の短編『ナイアガラ』を観てみた。

18歳になり施設を出ることになったやまめは祖父母の存在を知らされる。祖父は死刑囚・祖母は認知症となっていた。それらの事実を悲観せずに受け入れ、祖母の家で暮らすことになり、そこにはヘルパーの青年も寝泊まりしており…という話。深刻そうな要素が立て続けに提示されるも、前向きなやまめにより、不思議とやわらかな話になっていく様子がとても良かった。

そんなわけで上映回数が減っている『ルノワール』を観に行きたいところ。

PLAN 75【U-NEXT】

ナイアガラにやられたため、初長編『PLAN 75』も観てみた。これまたすごい。

75歳以上の老人に死を選択する権利を与える法案『PLAN 75』が可決された日本が舞台の物語である。働き口を失った78歳の老女、市役所でPLAN 75に関する業務を担当する青年、PLAN 75による遺体や遺品を処理する業務についた女性外国人労働者、申請者に対ししばらくの期間電話での話し相手となる女性コールセンタースタッフらの視点で、その制度と取り巻く人々の想いを描いていく。

ストレンジ・ダーリン【近所のシネコン】

J・T・モルナー監督のスリラー。極力情報を入れずに見てほしい作品であり、とにかく見る人の先入観を手玉に取る構成と35ミリフィルムのすばらしい映像がたまらない傑作。かなり好きな作品となっている。

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おすすめ!

顔を捨てた男【近所のシネコン】

アーロン・シンバーグ監督による不条理なスリラー。A24製作、セバスチャン・スタン主演。顔に極端な変形を持つ俳優志望の青年エドワードは外見を劇的に変える治療を受け、変形のない整った顔を手に入れる。過去を捨てて新たな人生を歩み始めたところ、眼の前に現れたのはかつての自分と似た変形を持ち、カリスマ性のある魅力的な男オズワルドであった…、という話。

恐ろしくもあり、おかしくもあり、アイデンティティというものについて深い問いかけを投げかける作品であった。ちなみに実際に神経線維腫症I型の当事者であり、障害者の権利向上に取り組む活動家でもあるアダム・ピアソンがオズワルドを演じている(歌声がすばらしい…!)。

灰になっても【キネマ旬報シアター】

デモの最前線にて撮影を続けたアラン・ラウ監督が、故郷を離脱して残した、香港の自由を賭けた闘いの生々しくも哀しい圧巻の記録。

殺しの分け前/ポイント/ブランク【キネマ旬報シアター】

ジョン・ブアマン監督、リー・マーヴィン主演の1967年のフィルム・ノワール。

やらかした親友リースの頼みで組織の大金の強奪を手伝ったウォーカーは裏切られてしまう。ウォーカーはリースとその背後の存在へ復讐を遂行しはじめ…、という感じなのだが微妙に「どういうこと??」と冒頭から置いていかれそうになるサイケデリックな演出もあり、不思議な魅力の作品であった。ウォーカーがあまりに強靭に突き進むのが痛快。

ルノワール【近所のシネコン】

早川千絵監督の最新作。仕事に忙しい母と入院中の父をもつフキ小5の夏休みの話。散文的なエピソードが集積されており、マンションに捨ててあったビデオテープを再生してみたり、変わった作文を書いて母親が学校に呼び出されたり、同じマンションの悲しげな女性に催眠術をかけたり、友達の家の引っ越しを誘発させたり、伝言ダイヤルのメッセージを聴き漁ったり、ついメッセージをのこしてしまったり。とにかくフキの子どもらしい好奇心やどこか冷めた目線がとても魅力的であった。かなり好き。

激愛!ロリータ密猟【DVD】

佐藤寿保監督の初監督作品。BLACK HOLEで紹介されており気になって観てみた。

唐草模様の風呂敷で女を攫って持ち帰り凌辱してはポラロイドカメラで記録して解放、なんてことを日々続けるやばいやつ・マサオが、ある日コンビニで万引きをしていた美香(自称18歳)が捕まったところを助けてやり、不思議な関係性を築いていく話。

R18+なだけあり、血みどろだしエロも多く、結構度肝を抜かれるシーンがあってビビる。だいぶぶっ飛んだ作品。

ボイジャー【キネマ旬報シアター】

ユネスコ職員の男が船旅で出会った若い女性と心を通わせるも、実は…という話。

カーテンコールの灯【キネマ旬報シアター】

なにやら深い傷を持っている夫婦と娘の3人家族の再生の物語。建設作業員の父ダンが、その「傷」に関するストレスから横暴な通行人に食って掛かってしまい休職することになり、それを見かけた女性リタからなぜか演劇の集まりに誘われ、ロミオとジュリエットのロミオ役を演じることになってしまうのだが…という話。

不器用で繊細なダンを演じたキース・カプフェラーと母娘役の3名は素晴らしくリアルな家族感を醸し出しているのだが、実際に家族だそうな。演劇を志していたが悲しみから問題行動を繰り返す娘・デイジーの魅力的なキャラクターも素晴らしかった。

少し前に観たシンシン SINGSINGにも通じつ演劇を題材とした映画だが、同じくらいそこに意味があり、とても良い映画だった。

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おすすめ!

スーパーマン【近所のシネコン】

ジェームズ・ガン監督による『スーパーマン』を鬼滅で混み合うシネコンにて選挙翌日に鑑賞。

現代的に再構築され、非常にストレートにさすがにこうすれば伝わるでしょう?と言わんばかりな直球なメッセージがもはや素晴らしい。選挙直前に公開することに意味があった気がする。

犬好きにはかなりおすすめ。

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楽しかった!

盲山【シネマート新宿】

中国政府の検閲により、20箇所にわたりカットされた挙げ句に全面的に国内上映を禁じられたという作品である。

大学を出て就職先が見つからない22歳の白雪梅は、知り合った女性に誘われ高額報酬の仕事で山奥の村へ行き、騙されて人身売買により「嫁」として買われてしまう。何度も必死に逃げようとするもその度に捕まりなんとかして家族と連絡を取ろうと試みるのだが…という話。

フィルムで映し出される寂しげな中国の山村の風景は美しく、そして絶望的な閉塞感でもって観るものの心をざわつかせ続ける。

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救いなさすぎるけど、目が離せない力強い映画だったぞ!

IMMACULATE 聖なる胎動【新宿武蔵野館】

アメリカからイタリアの修道院にやってきたシスター・セシリアが何故かそこで処女のままに妊娠してしまい、聖なる存在に祀り上げられてしまう話。なかなかおぞましい展開になっていき、結構血みどろである。

鮮烈な画もあり、「修道院の日常」的な束の間のほんわかシーンが妙に良かった。ジャンプスケア好きにはおすすめの映画(「絶対来る…」と思ってたらやっぱり来る、の連続で疲れた…)。

黒部の太陽【新文芸坐】

これまで封印状態にあったという『黒部の太陽』が上映できるようになったらしく、池袋の新文芸坐にて、シネマdeシネマ出張編ということで平山夢明先生とギンティ小林氏のトークも聴けてしまうということで平日の池袋へ駆けつけた。

トークでは「どう撮影したのか?」といった観ていて気になった部分などを大いに補完してくれる素晴らしいもので最高であった。

筆者
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このシネマdeシネマ出張編は本当にいいイベントなので、全国巡業してほしい!

私たちが光と想うすべて【近所のシネコン、キネマ旬報シアター】

インドのパヤル・カパーリヤー監督による作品。

同僚でルームメイトの真面目なプラバと年下で明るいアヌの二人の女性はともに暮らしつつも少し心の距離があった。プラバは結婚しているのだが、夫は婚礼直後にドイツに渡り働いており連絡が途絶えて久しい。アヌには異教徒の恋人がいるのだが、保守的な両親はもちろんプラバやまわりにも秘めた付き合いをしていた。そんな中二人が勤める病院の食堂に勤めるパルヴァディが高層ビル建築のために自宅から立ち退きを迫られ故郷である海辺の村へ帰ることになってしまう。ひとりで生きていくという彼女を村まで見送るべくついて行ったプラバとアヌは、静謐な森や不思議な洞窟のある村で、それぞれの人生を変えようと決意するきっかけとなる、ある出来事に遭遇し…という話。

冒頭はドキュメンタリーのように始まり、いわゆる(歌って踊る的な)インド映画とは一線を画すリアリスティックな物語が静かに展開していく。女性たちの友情と、それぞれの自由意志が力強く描かれるさまに心揺さぶられる。またその映像も音もすばらしいのである。

筆者
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不思議な魅力にやられ連日二回観てしまった…!おすすめ!

ガンダーラ【キネマ旬報シアター】

ALPS【JAIHO】