FEMME
憎悪に満ちたヘイトクライムに遭い塞ぎ込んでいたドラァグパフォーマーのジュールズは、ある日訪れたゲイサウナで偶然にもその主犯格であるタトゥーだらけの男・プレストンを発見。こともあろうに、メイクのないジュールズに気づかずプレストンはジュールズを誘ってくる。彼の中の矛盾を見出したジュールズは、復讐のためにプレストンとの関係を深めていくのだが…といった話。
凄まじい緊張感と映像美に終始目が離せなかった。 そして題材なくしてたどり着けないであろう、未曾有の切なさにやらてしまった。鑑賞時点では今年の個人的ベスト更新!という勢いの傑作。R18+のイギリス映画。
終わりの鳥
長い事病を患っておりすでに、死を覚悟した15歳の少女・チューズデイのもとにコンゴウインコの姿をした死の化身「デス」が訪れる。デスはすばらしく太い声でしゃべり、歌い、体のサイズも変幻自在。チューズデイはデスをジョークで笑わせ、外出中の母親が戻るまでの時間をもらうことに成功する。しかし帰宅した母ゾラは彼女の死とデスの存在を受け入れることができずに、まさかの行動にでてしまい…という話。
今年になり死を描く映画をいくつか観たのだが、その中でも愉快でユニークな作品であった。デスが大変いい声である。なかなか楽しめたA24作品。
ベテラン
近々『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』を観ようと思っていたためPrimeVideoに加わったのを見計らって鑑賞。
先月観た『密輸1970』がかなり面白かったのでリュ・スンワン作品への期待が高まっていたところ、やはり抜群に娯楽性の高いおもしろ映画であった。チームの警察モノは『犯罪都市』シリーズなどの走り的な作品かも(ちなみに今作でマ・ドンソクが終盤カメオ出演していたりする。あわや参戦か!?と思ったがそんなことはなかった)。今作は韓国で実際にあったことをベースとした財閥のゲキヤバボンボンに対する勧善懲悪モノとなっている。
パミョを観たときにも気になったのだが、韓国では病院の病室に店屋物を頼む文化がある模様である。なんかいい。
パール
いよいよ『マキシーン』公開が近づいているので、A24発のタイ・ウェスト監督のシリーズ2作目にあたる『パール』をようやく鑑賞。少し前に配信で観た一作目の『X』から60年前の物語である。Xはエロ全開だったが、今作、そこはごくほんのりとしか表現しておらず、パールがいかにしてシリアル・キラーへと変じていったのかを主軸にミア・ゴスの圧倒的な演技を堪能できる作品となっている。映像は現代的な画質なのだが、冒頭のテキストのあしらいから細かい部分へのこだわりが感じられるのも良い。クライマックスへつながる長回し、そしてエンドロールのミア・ゴスがすごすぎてかなり好き。マキシーンへの期待が高まるばかり。
それにしてもあの池のワニ、便利である。
ベテラン 凶悪犯罪捜査班
ベテランを予習してのベテラン2である。
私刑を繰り返し、ネット上では人気となっている殺人犯「ヘチ(韓国の空想上の生き物を由来としている)」が実は交番勤務の警官で、ベテランチームに加わっちゃう、という話になっている。実際にあった事件を下敷きにした哀しい事件、そしてそれに対する軽いと思わずにはいられない刑と、そこからくる韓国社会にたちこめる司法への不満が描かれる。
わかりやすすぎる勧善懲悪だった1作目に対して、より現代的な複雑さを持ったヴィラン像を作っての厚みをました2作目となっている。しかしまずもってチームが帰って来きた!というシリーズモノとしての作りが絶妙で、冒頭の圧倒的なテンポ感とコメディ具合ですでに満足感が満たされ始める感じがあった。また雨の中のアクションがかっこよすぎる見応え満点な作りなのもすばらしい。
チーム以外にも前作から引き続きの登場となる役がちらほらおり、また描写の対比のようなものもちらほらあるのかも?と思わせる作りになっている。前作を踏襲したセリフなんかも結構あるので、前作を観ておくとつながりがより楽しめるだろう。とはいえ観ていなくても全然楽しめる娯楽作品になっている。
なにやら続きそうな引きがあったので、いっそ長く続いてほしい。
シンシン SING SING
ニューヨークで最も厳重なセキュリティだというシンシン刑務所の中で実施される更生プログラムRTAのメンバーの物語。驚くべきことに、出演者の85%が元収監者であり「本人」役で出演を果たしている。
無実の罪で収監されているディヴァインGはそのRTA創設メンバーであり、刑務所で唯一自由に振る舞える演劇に取り組み、それを希望として生きていた。新たな演目に、刑務所でも話題のワルであるディヴァインアイが参加することになる。はじめは怒りに身を委ねるディヴァインアイだったが、メンバーたちとの活動の中で心を開き演技をモノにしていく。ディヴァインGはアイを支え友情を育むのだが、Gにとってあまりに残酷なことがおこり…という話。
これがまた心に残る素晴らしい映画であった。演劇という芸術の持つ力と、活動を通して築いてきた互いに助け合う絆が、彼らの生きる糧となっている様子が主演のコールマン・ドミンゴとRTAメンバー達により見事に描かれていた。助演となるディヴァインアイことクラレンス・マクリンも本人役で演じている1人であり、怒りに囚われていた過去から活動を通して脱却するさまを圧巻の演技で自ら表現していた。
映画の中では差別によって生まれたアメリカの刑務所を取り巻く構造も描かれている。特に有色人種や貧困層などで、ディヴァインGのように無実の人が収監されてしまうケースは特殊ではないという。作品を通してそれを踏まえた配慮ある作りであり、パンフレットにも冒頭に「使うべきではない言葉・使うべき言葉」を提示している。そんなところも含めてぜひ観てほしい作品。北米配給はA24。
GHOST KILLER
凄腕の殺し屋工藤が始末されてしまい、その時の薬莢が巡り巡って、転んだ女子大生ふみかの目に留まる。そんなわけでふみかは工藤に取り憑かれてしまい、さらに体の動きを同期させられる謎システムを発見。その技で悪者をバッカンバッカンなぎ倒していく、という話である。
圧巻のアクションで度肝を抜かされたベイビーわるきゅーれシリーズのアクション監督を務める園田氏がメガホンをとったアクション映画であり、脚本はベイビーわるきゅーれの阪元裕吾監督が担当している。さらに主演が髙石あかり氏、工藤役はベビわるシリーズ1作目でボス的な役だった三元雅芸氏ということで、ベビわるファンとしてはどうにも見に行きたくなる建付けである。で観に行った。
やはりすごいアクションと、阪本節とも言えそうなセリフ回しやキャラクター造形が楽しめる娯楽作品となっている。
レイブンズ
日本の伝説的な写真家深瀬昌久の半生を描いた作品。日本人の物語なのだが意外なことに監督はイギリスのマーク・ギル監督が担っており、主演は浅野忠信、最強の被写体と呼ばれた妻・洋子を瀧内公美が演じている。
父との確執を通して深瀬の中に生まれてしまった心の闇を鴉の化身として描いており(しかもなぜか英語で語りかけてくる)、そんなフィクショナルな描写を織り交ぜた天才写真家の狂気と純粋さが興味深く、またどうしようもなく切なかった。
関心領域
昨年映画館で観ているが、PrimeVideoにて再度鑑賞。なんとなく吹き替えにした。やはり音の演出がキモであり、できれば映画館で字幕で見たいかなと思ったり。

異端者の家
ヒュー・グラント主演のサイコスリラー。いわゆるモルモン教の宣教のために2人のシスターが訪れた気さくで知的なおじいさんの家が激ヤバハウスだった、という話。宗教的な知識があったらより深く楽しめそうだが、ほとんどなくても楽しめたので助かった。緊張感あふれる構成がすばらしくなかなか見入ってしまった。A24作品。
ミゼリコルディア
アラン・ギロディ特集のひとつ。2024年の最新作となるフランス映画である。これが破格におもしろかった。
かつての上司であったパン職人の葬儀のため、失業中の男ジェレミーが南フランスの村にもどりその元上司の奥さんマルティーヌの家に泊めてもらうことになる。ジェレミーはかつて好きだった疎遠な男と交流をはかったり、行く先々で老神父に遭遇したり、連泊するうちにマルティーヌの息子で昔なじみのヴァンサンから「おふくろを狙っている」と疑われ毎朝部屋に忍び込まれ恫喝を受けたり、実は死んだ元上司が好きだったことをマルティーヌに打ち明けたりして、なにやら全然帰らない。である日しびれを切らしたヴァンサンに山奥に連れて行かれ殴られるのだがその勢いでジェレミーはヴァンサンを殺してしまい、冷静に隠蔽するも徐々に村人や警官から疑われ始め…という話。
初のアラン・ギロディ作品だったがまったく予想できない珍な状況、珍な展開、珍な着地点に度肝を抜かれた。おもしろすぎて他のアラン・ギロディ特集も観ようと決意した次第である。余談だが終盤のチンな描写にはやられた(他のお客さんも思わず笑っていた)。
これまた年間ベストに入れたくなる一本。
JOIKA 美と狂気のバレリーナ
アメリカ人で初めてボリショイ・バレエ団に入った女性ジョイ・ウーマックの、実話を元にした物語である。主演は先月観て面白かった『スイート・イースト』のタリア・ライダー(美しい)。
漫画のような、過酷でときに陰湿なバレエ学校での日々と、本当に血をにじませながらの努力によってどうにか入団の道をこじ開けるジョイの意志はまさしく狂気に限りなく近く戦慄しきりである。ジョイ・ウーマック本人がコレオグラファーを努めている。またタリア・ライダーはバレエの素養がありつつ1年訓練に費やしたうえで可能な限り自身が踊っているとのこと。ラストの凄みには息を呑んだ。
ノーバディーズ・ヒーロー
アラン・ギロディ特集2本目。これも最高。
ジョギング中に道端で中年娼婦イザドラに一目惚れした男メデリックが、いきなり告白し、その後どうにかこうにかヤりたいのでがんばる話である。で、ことごとく肝心なときに邪魔が入って全然ことに至れない。こともあろうに最初に入る邪魔が近所の広場での自爆テロ事件なのだ。しかもその直後に彼女の夫が部屋に平然と入ってきて「外まで声が聞こえたぞ」などといってイザドラを連れて行ってしまう(実際ギャグかのようにでかかったのだが、イザドラ的にはガチ)。イザドラも満更ではなかったのでどうにかこうにか二人でことに至ろうとはするのだが、その後も何度も至れずに邪魔が入り続ける。それと並行してアラブ系の家出少年セリムをテロ犯かと疑い通報したり、すぐ釈放されたので助けたりしているうちに、アパートの住人たちとセリムをどうするか議論したり、彼が不良に襲撃されたり、イザドラ御用達のホテルの受付と顔なじみになったり、メデリックの仕事仲間の女性が公私混同でメデリックにアプローチしてきたり、周りとの珍な関係ばかりが深まっていく。果たして彼はヤれるのか…!?といった話。
まったくもって物語の予測がつかず、流動的に登場人物の関係性の変化が続き、なんならメデリックの自称する性的な志向すら変わっているようにも取れるのだがその流れに身を委ねるのが楽しい映画であった。劇場でも笑い声がちょいちょいあがってしまう珍なユーモアがとても良い。ラストもなんとも味があって好き。
【推奨】18歳以上 ※過激な性描写有り
湖の見知らぬ男
アラン・ギロディ特集3本目。伝説の傑作スリラーとの触れ込みだったが、これまたビビる面白さであった。
森の中の湖は男たちのハッテン場となっており、失業中のフランクはバカンスにて久しぶりにその湖へと通い始める。経験はあるもののゲイというわけではないアンリと世間話をする仲になり、美しい肉体のミシェルと恋仲となる。しかしながらミシェルと関係を持つ前、夕暮れの誰もいなくなった湖の水上で、ミシェルとその恋人だと思われた男が争う現場をフランクは森から目撃していたのであった。しばらくして湖で死体が発見される。不穏な湖にて、フランクは恐怖を上回るミシェルへの想いに身を委ね…という話。
青い湖面や森の木々、そして夏の日差し、その只中に当然のように放り出された数々のイチモツに凡庸な倫理観のタガが外れるほどの衝撃を受けた。あまりに自然なのだ。自然すぎてそこら中に放り出されたそれらがただの体の一部でしかないことを受け入れることができた次第である。パンフレットに記載されていたが、アラン・ギロディ監督がかつて来日した際に話したという「セックスをポルノグラフから開放したい」という意志をすでにして体感することになる驚異的な導入であった。ちなみに自然にそこらにあるそれらも一度森に入れば様子が変わってくるわけで、こちらは結構ハードにガッチリネッチリと描かれるため、もう一段階タガが外れる。
情熱と恐怖の狭間にて、愛が試される物語であった。
【推奨】18歳以上 ※過激な性描写有り
映画館で鑑賞した作品から5作品選定したのがこちら。
- FEMME
- ミゼリコルディア
- シンシン SING SING
- 異端者の家
- ベテラン 凶悪犯罪捜査班
アラン・ギロディ特集が最高すぎたので全部並べたくなる勢いだが、代表してミゼリコルディアを入れておいた。