2月にクロックワークスのXアカウントにてFEMMEの公開日決定が発表され、予告編から醸し出されるムードに惹かれ映画館へ足を運ぶことに。で、観てみたらこれがもう素晴らしい傑作で、個人的には今年度の暫定1位になりそうなくらいとても好きな一作と相成ったわけである。

ラストでとんでもないぐちゃぐちゃな気持ちになった…
そんなわけでFEMMEを紹介したい。
『FEMME』だいたいこんな話
ドラァグパフォーマーのジュールズはパフォーマンスの後に憎悪に満ちたヘイトクライムに遭い、数ヶ月ふさぎこんでいた。ある日ゲイサウナを訪れたところ、なぜかそこにその主犯格の男プレストンがおり、ノーメイクのジュールズには気づかず、こともあろうにジュールズを誘惑してくる。プレストンの内なる矛盾に触れたジュールズは、復讐のために彼と関係を深め、危うい駆け引きに身を委ね…、という話。
2021年に英国アカデミー賞にノミネートされた同名の短編を基に、サム・H・フリーマンとン・チュンピンが長編として再構築した作品となっている。
『FEMME』感想とか【※ネタバレあり】
とにかく凄まじい緊張感と映像美に終始目が離せなかった。そして題材と素晴らしい演技なくしてたどり着けないであろうラストカットの未曾有の切なさに打ちのめされた次第である。
冒頭、ジュールズ(ネイサン・スチュアート=ジャレット)が『アフロディテ・バンクス』としての鮮烈なドラァグパフォーマンスを見せる。その直後、プレストン(ジョージ・マッケイ)によりジュールズのアイデンティティが無理やり剥がされるショッキングなヘイトクライムシーンが展開してしまう。そしてそのプレストンもまた、実はマスキュリニティ(いわゆる男らしさ)と言う名の仮面を必死に身にまとっていることが浮き彫りになっていく。今度はジュールズが、復讐のためにプレストンの装いを解いていくのだ。凝り固まったものをほぐすようにジュールズは危うい駆け引きに身を投じる。ジュールズのアイデンティティを取り戻すための戦いが、奇しくもプレストンのアイデンティティを取り戻すきっかけとなっていき、それゆえにこれ以上なく残酷な結末を迎えてしまうのである。
ジュールズの脆くも力強いニュアンスやプレストンにつきまとう葛藤が、ふたりの素晴らしい俳優によって非常に繊細に表現されており、それによってもたらされる張り詰めた緊張感と初々しい恋心のようなものが同居する混沌のサスペンスに心をかき乱されるばかりであった。
そんな、リベンジスリラーと言う名の戦慄のラブストリーである。

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