キネマ旬報シアターで『Underground』を観てきた。日本の「地下」の記憶をめぐる、なんとも特異な映画作品であった。

見入ってしまった…!
『Underground』こんな映画
これまでも世界の地下世界にカメラを向けてきた小田香監督による「地下世界三部作」の最終作にあたる作品。
1作目『鉱ARAGANE』(2015年)はボスニア・ヘルツェゴヴィナの炭鉱を、2019年の2作目『セノーテ』(2019年)ではメキシコのユカタン半島北部の洞窟の中の泉を、そして3作目となる『Underground』は日本各地の地下を舞台とし、その地の「記憶」と「生痕」を巡る。
16mmフィルムによる美しい映像でもって北海道から沖縄までさまざまな場面が映し出される。ナレーションや文字情報での補足はなく、それがどこなのかは映画の中では殆ど明らかにならない。雨水管にはじまり、地下施設や地下鉄、自然洞窟、寺、映画館、ダム湖など多様なロケーションであり、ときにはプロジェクションマッピングのような手法で映像を投影する場面もある。そして吉開菜央氏が演じる「ある女性の姿を借りた「シャドウ(影)」という存在」がしなやかな実在感を伴って各地を徘徊し(ふつうに生活もし)地下世界の記憶のつながりを感じさせる。
ほんのりとフィクショナルな、なんとも不思議な没入感に満たされる特異なドキュメンタリー映画であった。

すばらしい映画体験になった…!
おまけ 併せて読みたい小田監督インタビュー記事
非常に印象的だった『Underground』だが、鑑賞した後にこの映画が気になって監督の意図や想いを知れればとインタビュー記事をいくつか読んだ。どれもおもしろかったので簡単に紹介したい。
NiEW フィルムメーカー小田香インタビュー 他者の声を拾い、遠い未来へ届けたい
2025/2/20の記事。監督の来歴にはじまり、映画作りにおける信念・信条、想いなどが語られるインタビュー。
GINZA 「人は一人やな」それでも——映画が探る地下と記憶の交差点
サンレコ 映画『Underground アンダーグラウンド』における音楽と映像の関係性
2025/3/12の記事。これまでは単独での映画製作を行ってきた小田監督であったが、Undergroundにてチームでの製作を実施。音楽もまた今回はサウンド・アーティスト細井美裕氏に一任している。Undergroundの音に関する対談記事。
2025/3/15の記事。ベルリン国際映画祭のフォーラム部門で上映された後のインタビュー。Undergroundの成り立ちが内容の中心となる。シャドウに対するやや突っ込んだ質問もあったりして興味深い。
元町映画館 Interview vol.22小田香さん(フィルムメーカー)地下か地上かではなく、全てが地続きになっている
2025/4/28の記事。神戸の元町映画館によるインタビュー記事。ベルリン国際映画祭が新イスラエルなドイツ政府の助成によって成り立っていることについて問題になっていた参加を迷っていた話に始まり、Undergroundの成り立ちがメインの話題となっている。